畳の上で死なず

2007-09-26絶望を口ずさむように君の命に価値を与えてやる 1


「人類最古の芸術を知っているか?」

何に従い従うべきか考えていたなどと80年代の歌手のような事をぬかす気はないけれど、ごく自然な不快を避け快楽を求める本能に従い授業をサボって、屋上で雲など眺めながら寝そべり、煙草をふかしていると、僕を逆さから覗き込む見慣れた顔が逆光の中に輪郭を齎した。

「職業、なら聞いたことあるけど。売春婦だっけ?」

僕は身体を起こし、そいつの顔に煙を吹きかけながら、逆に問い掛ける。

「俺はその考え方にも疑問を持っているんだがな。芸術は人間にとっての余剰な部分、であるとの考え方がそもそもの間違いだ。人間は、いや、生物は生まれながらにして芸術家なんだ」

「勿体ぶらないでさ、いい加減に答えを教えてよ」

「ああ、」

九字原達也は10メートル先からでも解るような男臭さを振り撒きながらもその端麗な顔を真剣に据え、一言だけ放った。

「暴力だ」

その顔があまりにも真摯なので、僕は笑うところなのか、ツッコむべきところなのかも解らず、九字原の顔を憮然と見返すだけだった。

「お前、暴力が芸術に成り得るという事を想像できるか?」

「……いや。暴力が芸術?」

にわかには信じられない、というニュアンスを万全に出して返答する。

「表現するって事さ、生き方を。古代以来芸術ってのはそういうもんだ。あれは、何かに追い詰められた人間が残す、爪痕みたいなもんだ。ある人間は、キャンバスをぶん殴るように絵筆を取り、ある人間は呪詛の文言を刻むように文章を残す。全ての表現物は暴力の延長線上にしか無い。つまりさ、あらゆる芸術は一つの明確なモチベーションによって為される。自分が今ここに居るってことだ。それに気付いて欲しいんだ。自分の存在を知らしめるための、そのための最も原始的な手段。蛇が鹿を丸呑みにする動画とか、見たことあるか?」

「いや」

「あれは凄いぞ。Youtubeとかで見れるから、見た方が良い。あれが芸術で無かったら何かって事だ」

そう言うと、九字原は僕の隣に腰を下ろし、ごそごそとポケットから何かを探り当てる。黄色く図太い、プラスチックに製造過程で発生したバリを隠そうともしない、安物のカッターナイフが出てきた。

「頭を確認して、それからナイフを振り抜くんだ」

僕はその様子をまだ寝ころんだままぼうと眺めて、ああ、と嘆息した。この人、中二病か。

「眼球を刳り貫いて、そのまま脳まで運んで、宙に放り投げる」

頭蓋骨は無いんですか。プリンですか、人間の頭は。いい加減高二にもなったのなら、人体の理というものを、多少なりとも理解はしておいて欲しいものだ。